ダイバーシティ=多様性、この言葉が社会にようやく浸透した矢先ではありますが、
ダイバーシティの推進はもう古い概念になってました。
今、社会に必要なのはダイバーシティ&インクルージョン、通称D&I。
D&Iの意味や推進メリットを解説します。
Contents
なぜダイバーシティでは不十分?D&Iが必要とされる背景
女性活躍推進をはじめとする、いわゆるダイバーシティの取り組みでは、様々な社会課題への対処が不十分であることがわかってきました。
そして、持続可能な社会を作るために、ダイバーシティの概念を昇華させたインクルージョンの概念が追加されています。
現在ではダイバーシティ&インクルージョン(通称D&I)を目指すことが主流となっています。
ダイバーシティは多種多様な人々の個性を互いに認め合うという、意識改革の側面が強い。
しかし認め合う意識だけでは社会の現状に適切に対応しきれていません。
そして"認める"という意識には、"しょうがないから特別に受け入れてあげる"という上から目線が伴いがちでした。
認め、受け入れるためには、受け入れる側がどこかで無理や我慢やしわ寄せを強いられることもあり、
受け入れる側は逆に不公平感を持ってしまうことで、かえって差別意識が生れる場合もあります。
好景気で人材も十分に確保できている状態であれば、認める側・受け入れる側の我慢も続けられるかもしれません。
昭和の高度経済成長期の時代であればまだしも、今の社会は次のような社会課題に直面しており、
”多様性を認めてあげて、受け入れてあげて、特別扱いしてあげる”なんていう余裕はありません。
そもそも、”受け入れる”という上から目線の意識が広がるのは公正性の面での問題もあるよね。
ダイバーシティだけでは解決できない社会の現状
受け入れて特別扱いをしてあげるという対応に限界が見えてきたのは、次のような社会的背景があります。
①人材不足
②グローバリゼーションの加速と昭和的常識の破綻
③幸福や豊かさの価値観の多様化
④破綻目前の年金制度
そして、そもそもその”特別扱いしてあげる”という感覚自体が差別的で、もはや古いものにもなっています。
特別扱いされる側も、特別扱いを自分から望んだわけではないので肩身の狭い思いをすることになります。
特別扱いされる側は居場所がないと感じたり、自分の存在意義を感じられない状態が起こっていました。
そこでダイバーシティの“多様性を認める(認めてあげる)”という考え方に加え、
”多様性を活かす”インクルージョンの推進が求められるようになってきたのです。
D&I=ダイバーシティ&インクルージョン

ダイバーシティとは
日本語では「多様性」。
ダイバーシティは、人それぞれ多種多様で複雑な個性を持っていることを認め、
コミュニティの中に多様な人々が存在することを受け入れる状態を指します。
インクルージョンとは
日本語では「包括、包摂、受容」。
サービス業でも使われる用語の”オール・インクルーシブ=全て含まれている”や、
海外でのショッピングでよく使う”タックス・インクルーシブ=税込”などをイメージすると
しっくりくる人もいるかもしれません。
”区別しない””一緒に混ざっている”というような意味を持つ言葉です。
ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)とは
ダイバーシティとセットでインクルージョンという言葉が使われる時には、
”多様性で区別(差別)をしない”
”誰もがコミュニティの中に平等にあり、それぞれの存在が活きている”状態を指します。
ダイバーシティは、多様な人がコミュニティの中にあり、それぞれの個性が認められてはいますが、
個性・特性によって役割や待遇が分かれている状態です。
役割差や待遇差があるので、コミュニティ内でも同じ属性を持つ人同士での小グループ化が進みます。

インクルージョンの状態に変わると、それぞれの個性や特性による区分けがなく、
コミュニティの中自然に溶け込み、共存している状態となります。
D&I関連の法整備の例
D&Iを推進するための法律、代表的な例として次のようなものがありまs。
女性活躍推進法
結婚したら退職して専業主婦になるのが女性の幸せだ、と決めつけられていた昭和の頃から
会社の制度が変わっていない現状打破のために整備された法律です。
以下のような事柄についての行動計画を策定することが従業員300名以上の企業に義務付けられています。
・女性の採用や昇進の機会を積極的に提供すること
・職場内で女性の仕事とされてきた業務を男性にも分配する
・仕事と家庭の継続的な両立に必要な制度を設ける
この法律ができた2016年当時は画期的な法律でした。
これだけを見ると、やけに女性が優遇されている感じがしませんか?
法律がこれだけ女性を持ち上げないといけないくらい、昭和という時代が男尊女卑の世界だったのです。
この法律にもっともっと違和感を感じるようになり、
この法律が撤廃されるくらい男女の機会均等が当たり前の社会を作っていく必要があります。
障がい者雇用促進法
障がいがあっても人類の技術革新に多大なる貢献をした偉人もいます。
四肢に障がいがあっても脳が冴えていて従業員平均以上のパフォーマンスができる人もたくさんいるでしょう。
視覚に障害があっても全盲の方は一部で、視界が狭い、色が見えづらいなど、見え方の違いも人それぞれ。
一人ひとり異なるのに、「障がい者」とひとくくりにして非生産的立場に追いやるのは合理的ではありません。
日本には900万人の障がい者がいます。そのほとんごの方が能力を十分に発揮できる就業機会から遠ざけられている状態。
一方で、
2025年までに約500万人の労働者が不足する ※パーソル総合研究所「労働市場の未来推計より」
というデータがあります。
"障がい"をひとくくりにし、障がい者=社会が養う(特別扱いしてあげる)対象としてしまうのは、障がい者本人も社会も双方にとって不利益なこと。
この現状を打破するため、障がいの特性や個人のスキルに応じて活躍できる場を広げようとしたのがこの法律です。
この法律では、以下のような取り決めがあります。
・民間企業は、全従業員数の2.3%の人数の障がい者を雇用すること
※この障がい者雇用率は徐々に引き上げられています。
そして今後もさらなる引き上げがされると思われます。
高齢者雇用安定法
世界一の長寿国である日本。健康寿命が延びて元気なシニアがたくさんいます。
しかし企業では役職定年や早期退職の促進でシニアを切り捨てる制度化の方がどんどん進みました。
一方、破綻寸前の年金制度は、受給開始年齢を後ろ倒しにしたくてしょうがありません。
シニアにも働いてもらいたい(年金を出したくない)国が、シニア従業員を切り捨てたい企業に対してシニア雇用を義務づけたのがこの法律。
労働意欲も消費意欲もまだまだ旺盛なシニアに活躍してもらい、社会を維持するために必要な枠組みと言えるでしょう。
この法律では以下のような取り決めがあります。
・定年を70歳まで引き上げること
・70歳まで雇用を継続する制度を作ること(本人との業務委託契約をする)
・そもそも定年という制度の廃止を検討すること
・本人が希望する場合は、自社が関連している社会貢献事業に70歳まで従事できるようにすること
4つ目の社会貢献事業が個人的に魅力を感じます。
70歳まで頑張るのも悪くないかも?

D&I推進のメリット
ダイバーシティ&インクルージョンの推進について、社会に与える好影響は前述のとおりですが、
では企業や組織団体にはメリットがあるでしょうか?
「女性、障がい者、高齢者、LGBTQの周辺のよくわからない面倒なことを”やらされてる”感」
各社にまん延しているのが実情ではあります。
それに、D&Iに取り組もうとする企業の責任者(人事部長等)は、
男尊女卑の恩恵を何十年も受けてきた男性である場合が多く、
D&Iの考え方を最も受け入れづらい素地を持っている人だったりしています。
しかし、D&Iをしっかり理解し、しっかり推進することができれば、以下のようなメリットがあります。
優秀人材の確保(採用と定着)
かつての男性中心の組織では登用できていなかった人財群の中に、
実はハイパフォーマンス戦力が見いだせる可能性が高い。
労働可能な成人人口の男女比は約5:5。
従業員の中からリーダーを選ぶ時、男性5人から選ぶより男女10人から選ぶ方が、
よりパフォーマンスの高い組織を作れるはずなのです。
そして性差や障害の有無や国籍に関係なく能力を発揮できる組織は、
離職率が低下し、優秀人材の定着につながります。
実益直結:企画競争の際に競合他社よりも優位
官公庁や自治体から出ている公示案件に入札し、案件受注を狙う場合には、
D&I推進度の高い企業には、提案内容や入札価格とは別に加点が行われるのが普通になってきました。
D&I推進企業はそれだけで企業価値を評価してもらえるようになってきた。
加点の際には、価値基準として「えるぼし」や「くるみん」の認定状況に応じた配点が行われます。
※「えるぼし」や「くるみん」については後述します。
イノベーション創出の可能性が上がる
男性中心の組織では商品、サービスに関するアイディアも、マネジメントに関するアイディアも
男性目線のものになりがち。
D&Iを実現した組織の場合には、多様な価値観を持つ人たちによる自由闊達な意見交換が可能なので
これまでになかったアイディアが生まれやすくなります。
中途半端な推進では効果薄く、面倒くさいというデメリットばかりになってしまうので、
”しっかり推進”がメリット享受に至るための必須条件。

D&I推進する時に注意すべきこと
D&I社会への移行期間である現在は、
「女性管理職がいないと社会に叩かれるから、とりあえず扱いやすい性格の女性を昇進させておこう」
というケースもたくさんあるようです。
実際、今管理職たる年齢層で社内に残っている女性の多くは、
長い間”女だから管理職を目指しても無駄”なので非管理職としての活躍を目指す働き方をしてきた人がほとんど。
リーダー研修なども対象外とされ、管理職としての必要な学びを受けられずに働いてきた人も多い。
非管理職としての腕を磨いてきた人に「じゃぁ来月から管理職ね」という内示が出るので、
本人の経験を活かしての人選と言えないケースも多い。
そのことで「やっぱり女性には管理職は無理」という空気を醸成する結果を招くという問題もあります。
この女性管理職の問題だけでなく、障がい者雇用にしても外国人雇用にしても、
D&Iを達成するには、従業員全体のリテラシー向上が必須になります。
D&I関連の新法への対応をするために制度を作ったり、採用条件を拡げたりするだけでは、
前述したような不平不満がどうしても起こってしまいます。
D&I推進は、決して"特別扱い"や"優遇"ではなく、"機会の平等な提供"であるということを周知徹底し、ハラスメントにつながる差別、偏見、不平不満の発生を未然に防ぐ必要があります。
このD&Iの問題点をカバーするために、「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)」という言葉も生まれています。
ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)とは
ダイバーシティ(多様性を認める)では不十分だった部分を補うためにインクルージョン(平等に共生する)という考え方を組み込んでも、
不平不満、不平等(逆差別)感、不公平感という問題が生じています。
これでははD&Iの本質になかなか近づけません。
そこで、新たに「エクイティ(公平)」を追加し、D&Iの誤解を払しょくしようという動きが始まっています。
DE&Iのポイント
新たに追加されたE。
ポイントは平等を指す「Equality」ではなく、公正を指す「Equity」であること。
同じような意味にも聞こえますが、次のような違いがあり、D&IやDE&Iが目指すのはEquity(公正)の方であるということを理解しましょう。

D&I推進の具体的な方法とは~行動計画策定のヒント~
それでは、D&Iを推進するには具体的などうしたらよいのでしょうか?
最もやりやすく、実質的なメリットにもつながりやすいのは、まず、
「えるぼし」「くるみん」二つのの認定を目指すことです。
この認定基準を見ていくと
女性管理職比率、男性の育児休職取得率、時間外労働の実態など細かな項目ごとに
認定を受けるためにクリアすべき数値が設定されています。
この項目を一つ一つをクリアするためにあるべき状態と、現状の差異を確認することで
具体的な行動計画が立てやすくなるでしょう。
認定取得で実益に直結するので企業も取り組みやすいですね
ただし、この二つの認定制度だけ見ていると、女性活躍推進と働き方改革にジャンルが偏ってしまいます。
シニア、LGBTQ、障がい者、外国人などにも目を向けるためには
えるぼしとくるみんに加え、日経SDGs経営調査での偏差値向上を目指すとよいでしょう。
日経SDGs経営調査は、企業の社会価値、経済価値、環境価値の3側面から
企業の偏差値を算出しており、その中の社会価値に関する質問項目にD&Iに関する指標が明示されています。

D&Iについてもっと理解を深めたい場合
D&Iについてもっと理解を深め、実践につなげたい方におすすめの書籍を紹介しておきます。
D&I関連のおすすめ書籍
『真のダイバーシティを目指して』
ダイバーシティの基本がわかる本の中でもこちらをおすすめするのは、アメリカで書かれたものだから。
アメリカのマジョリティであるキリスト教徒目線で書かれているので、
日本人やキリスト教以外の人はマイノリティ扱いです。
ダイバーシティの基本をマイノリティの目線で読むことで自分事としての理解が深めやすくなります。
異なる人と「対話する」本気のダイバーシティ経営
国内大手企業のD&Iの取り組み実態や悩みを取材し、まとめた本。
昭和的価値観を持つ従業員をどのようにして変革していくか、
悩み多きD&I担当者の参考になる事例とメッセージ。
恐れのない組織
組織の中で差別されていると感じたり、本来の能力を発揮できず正当な評価を受けられないと感じたり、
自分の存在価値が感じられない状態は、心理的安全性が確保できていない状態です。
この状態にあると人はモチベーションが低下し、十分なパフォーマンスができません。
この「心理的安全性」についてよくわかる一冊です。
WORK DESIGN 行動心理学でジェンダー格差を克服する
行動経済学と心理学を用いて、現在のD&I推進の問題に切り込んだ一冊。
間違ったD&I推進がアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)を助長するということがよくわかります。
ダイバーシティ研修が差別拡大の引き金になるなど、衝撃的な事実も。
そしてもっと理解を深めたい方、仕事に活かしたい方には、次のようなD&I関連資格取得もあります。
D&I関連の資格
D&I総合的理解の資格もありますし、多様なそれぞれの属性に関する理解を深めるテーマ資格もたくさんあります。
ダイバーシティ・エデュケーター(特定非営利活動法人日本BPW連合会)
ジェンダー平等の知識を深め、ハラスメント防止やハラスメント被害者のメンタルヘルスなどについて学べる資格。
宗教文化士(宗教文化教育推進センター)
世界三大宗教であるイスラム教、キリスト教、仏教の他、ユダヤ教、ヒンドゥー協、神教、
その他新興宗教も含めた宗教文化全体について総合的に学べる資格。
2021年10月以前は、大学で所定単位を履修済みの人しか受けられない試験でしたが、
ダイバーシティ理解が専門知識ではなく一般常識化してきたことを受け、現在では受験要件が緩和され
誰でもチャレンジできるようになりました。
LGBT基礎理解検定(一般社団法人日本セクシャルマイノリティ協会)
性的マイノリティについての理解を深め、LGBTへの配慮の仕方について学ぶことができる資格。
特に企業の人事担当者や教育現場で働く人に役立つ知識です。
ビーガン検定(Veagan検定実行委員会)
ビーガン(ベジタリアン)をテーマとした検定試験。
ビーガン人口は年々増えているものの、ビーガンである理由は、信仰、文化や風土、健康上の理由、
動物愛護など人それぞれ。
そして、絶対に肉を食べない人もいれば、食べない肉の種類を限定している人もいれば、肉を食べない期間を設定している人など、食べない種類と程度、制限方法もさまざまです。
知識ゼロから学べる講座と試験がセットになっているのでビーガンではない人でも気軽にチャレンジできます。
ガイドヘルパー
正式名称を「移動介護従事者」と言います。
障がいが理由で一人での外出が難しい人に付き添い、外出のサポートを行えるようになる資格。
養成講座の受講修了で資格取得することができます。
障がいの種類によってサポートすべき内容が全く異なるため、次の3種類の資格に分かれています。
・視覚障がい者のサポート→同行援護従業者
・車いすの方のサポート→全身性移動介護従事者
・知的障がい者→行動援護従業者
視覚障がい者の同行援護と車いす利用者の全身性移動介護については、
介護系資格の保有や、介護現場での実務経験が必要となる場合があります。
養成講座の受講資格要件は都道府県によって異なります。
現状無資格・無経験からこの資格を取る場合には、
受講資格要件の設定がない都道府県で開講されている講座を探しましょう。
働き方マスター検定(一般社団法人全日本情報学習振興協会)
少子高齢化や生産年齢の減少など、働き方改革が必要となった社会的背景について学び、
企業におけるD&I推進についての正しい知識を身に付けることができます。
ワークスタイルコーディネーター(一般社団法人全日本情報学習振興協会)
「働き方マスター検定」の上級試験。
多様な個性をもつ従業員への公正な待遇など、関連法規の知識も交えて詳しく学ぶことができます
ダイバーシティ・アテンダント(一般社団法人ダイバーシティ・アテンダント協会)
販売、飲食、観光などダイバーシティ対応が必要とされる接客業の方のための資格で、
外国人対応、障がい者対応、高齢者対応など幅広くカバーしています。

ダイバーシティ&インクルージョン、なんとなくわかっているようで知らないこともたくさん。テーマが多様性だけに知るべき課題の範囲もかなり広いですよね。
全体概要をつかんだら、女性、外国人、障がい者、LGBTQ、高齢者、ビーガンなどのジャンルの中から自分の仕事や生活により身近なジャンルを深堀していくとよいでしょう。
私も少しづつ学びを深めてまいりたいと思います♪